2020年、日本中の人が衝撃を受けた事件がありました。
俳優伊勢谷友介さんの大麻所持による逮捕です。
長年大麻に関する情報を、様々な形で世に送り出している長吉秀夫さんもその内の一人でした。
長吉さんは、その事件をきっかけに「なぜ大麻で逮捕するのですか?」の出版を決意。
今回の記事では、著者ご本人から本の紹介だけでなく、日本の大麻規制に対する疑問点や最近厚労省が検討している使用罪についてまで寄稿して頂きました。
【著者プロフィール】

ノンフィクション作家
1961年 東京生まれ。大麻関連を中心に執筆と講演活動を行っている。最新作は「なぜ大麻で逮捕するのですか?」主な著書:「大麻入門」(幻冬舎)「健康大麻という考え方」(ヒカルランド)等 実験的にZINE「TAIMA」も始め、好き勝手描いている。
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Amazon 著者ページ https://amzn.to/3oTa0eP
なぜ大麻で逮捕されるのか
2020年12月に、「なぜ大麻で逮捕するのですか?」という本を出版した。
これは、日本の大麻規制に対して大いに疑問を持つ、各界の専門家との対話をまとめた本である。
この本を執筆したきっかけは、俳優の伊勢谷友介さんの逮捕だ。
そして、一般人がLINEのオープンチャットに大麻について書き込みを行い、麻薬特例法の「あおり・唆し(そそのかし)」の容疑で逮捕され、実名報道されたという事件に衝撃を受けたからである。
日本には大麻取締法があり、この法律に違反すると逮捕される。では、なぜ大麻は法律で規制されているのだろうか。
大麻取締法は、戦後GHQの命令によって作られたことは広く知られている。内閣法制局長官だった林修三氏は、当時のことを次のように語っている。
抜粋して紹介しよう。
『(略)当時、占領軍当局の指示で、大麻の栽培を制限するための法律を作れといわれたときは、私どもは、正直のところ異様な感じを受けたのである。先方は、黒人の兵隊などが大麻から作った麻薬を好むので、ということであったが、私どもは、なにかのまちがいではないかとすら思ったものである。大麻の「麻」と麻薬の「麻」がたまたま同じ字なのでまちがえられたのかも知れないなどというじょうだんまで飛ばしていたのである。私たち素人がそう思ったばかりでなく、厚生省の当局者も、わが国の大麻は、従来から国際的に麻薬植物扱いされていたインド大麻とは毒性がちがうといって、その必要性にやや首をかしげていたようである。従前から大麻を栽培してきた農民は、もちろん大反対であった(略)』(「時の法令」財務省印刷局編より)
このことからもわかるように、日本で大麻が規制された時点では、大麻による事件は存在していなかった。
そして、大麻取締法が制定される過程において、科学的な検証が全くされていなかったのである。
1970年代になると、ヒッピームーブメントを経て、大麻による逮捕者が少しずつ増加しはじめ、井上陽水などの有名人が大量に逮捕されたことがきっかけとなり、大麻への社会の関心が高くなっていった。
当時の大麻裁判の法廷は現在とは少し様子が異なり、大麻の有害性などについても活発な議論もおこなわれていた。
しかし、1985年に最高裁からふたつの判決が出されたことにより、その後の司法は思考停止に陥る。
ひとつは、大麻密輸事件への東京高裁における検察側の主張に対する最高裁の判断だ。
この裁判で検察は、「大麻は幻覚・妄想等のみならず、時として中毒性精神異常状態を起こすことは、国際機関等の研究・報告によって明らかであり、大麻が人体に有害であることは公知の事実であり、有害性がないとか極めて少ないということはできない」と主張した。
これに対して最高裁は、検察の主張を全面的に認めた。
さらに、同年にドイツ男性が大麻を日本へ持ち込もうとした事件の裁判では、「大麻が有害であることについては、法廷で立証する必要もなく事実である」という判断が下された。
それ以後の裁判においては、「大麻が有害なのは公知の事実である」として、事実上、議論もされずに現在に至っている。
大麻は有害ではない
世界では、1990年代から医療用大麻の研究が急速に進み、大麻の有害性の有無についても科学的に検証されていった。
そして2018年にWHO依存性薬物専門家委員会(ECDD)は大麻(カンナビノイド)の依存性について検討を行った。
その結果、大麻と大麻樹脂には強い依存性はあるが医療価値があるとして、規制のカテゴリーをワンランク軽いものに移行した。
そして大麻エキスや大麻チンキは、それまでの「依存性が弱い麻薬」というカゴ
リーより下の「除外製剤」に位置づけられた。
さらに、THCが0.2%以下のCBDオイルなどのカンナビノイドオイルは、規制の対象外に置くべきと結論付けられた。
つまり国際社会は、大麻成分には強い依存は無く、医療価値があるということを科学的に認めたのである。
そうなると、日本の最高裁が1985年に出した、「大麻が有害であるのは公知の事実である」という判断は、正確ではないということになる。
つまり、現在の日本で大麻が規制されている理由には科学的な根拠が乏しく、大麻取締法自体に問題がある可能性があるということだ。
大麻取締法の矛盾点を解消するための非犯罪化
科学的根拠もなく、社会的な検証もせずに規制してきた大麻取締法の矛盾を、日本社会は解消する必要がある。
これは日本だけの問題ではない。例えばEUは、各国の大麻を規制する法律の量刑と、大麻が社会に及ぼす被害とのバランスを解消すべく、1990年代から対応
してきた。
その一つが「非犯罪化」だ。
「非犯罪化」とは、大麻を規制する法律が存在しても、「逮捕しない」或いは「逮捕しても犯罪として扱わない」という行政処置のことだ。
非犯罪化を取り入れてきた国々は、その間に法改正を行い、問題点を解消し始めている。
一方、日本はどうだろうか。
日本で大麻取締法に違反すると、5年から7年の懲役刑が科せられる。
有罪にならなかったとしても、逮捕されただけでテレビやネットニュースに実名で報道されてしまう場合もある。
これによって社会的に抹殺されその後の人生を破壊されてしまう。
大麻取締法の大きな問題点は、大麻による社会的な有害性とそれに見合う刑罰の重さとのバランスがとれていないという点である。
重篤な害はないという科学的な結論に対して、日本の大麻取締法には懲役刑しかない。
しかも国は、この法律についての科学的な検証を73年間、一度も行っていないのである。
国は、大麻取締法を見直し、法改正をすべきである。
しかし、法改正を行うには、それなりの年月がかかる。
そうであるならば、それまでの間は逮捕するという行政処分を停止し、大麻取締法を非犯罪化すべきである。
厚労省は、使用罪導入を検討しはじめた
厚生労働省は、2021年1月に大麻取締法への使用罪の導入を検討しはじめた。
これは恐らく、国際条約で医療大麻が認められたことを受けての動きだろう。
つまり、医療大麻の使用を認める代わりに、嗜好大麻に対しては更に厳しく規制するということだ。
そうすることにより、医療大麻は医薬品としてモルヒネ同様に劇薬のように管理される可能性がある。
もしかしたら、CBDもTHC同様に規制されるかもしれない。
なぜなら、現在国内で流通しているCBDの多くは、違法部位である花穂(バッズ)から抽出されている可能性があるからだ。
こんな不毛なことは、もうやめてほしい。
WHOは大麻成分には重篤な害はないという結論を出しているのだ。
そして、THC0.2%以下のCBDオイルは規制の対象外にすべきだといっているではないか。
日本の大麻取締法は、完全に科学に追いつけていない。
それに対して日本は、段階的に法改正を行おうとしている。
今回の厚労省の動きはその表れだ。戦後初めて、国が大麻問題について検討し始めたことについては、評価したい。
結果がどのようになるのかはこれからの議論にかかっている。
しかし、それを検討しているこの瞬間も、どこかで逮捕者が出ており、そのひとの人生が破壊されようとしているのだ。
法改正をするまでの長い時間を待つのではなく、先ずは逮捕しないなどの運用で対応することが必要なのだと思う。
僕は、このような理由から、大麻取締法の非犯罪化を主張している。
【著者プロフィール】

ノンフィクション作家
1961年 東京生まれ。大麻関連を中心に執筆と講演活動を行っている。最新作は「なぜ大麻で逮捕するのですか?」主な著書:「大麻入門」(幻冬舎)「健康大麻という考え方」(ヒカルランド)等 実験的にZINE「TAIMA」も始め、好き勝手描いている。
TAIMA Shop https://taima.theshop.jp/
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